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【インタビュー後編】

水から油 活用の可能性無限大の膜ろ過技術を社会に

中央大学研究開発機構 機構助教 

丁青(テイセイ)さん

※所属、肩書はインタビュー当時(2022年5月)のものです。

インタビュー前編はこちら

「凝集膜ろ過」というのは、ものすごく簡単に言えば、膜でゴミを取ることです。水を綺麗にするためには、水だけが膜を通るようにしないといけない。そのためには、ゴミを薬剤でまとめて “塊にする” 必要があるわけです。「凝集膜ろ過」は、1990年代から注目されはじめた水処理方法で、まだまだ新しい技術です。だから原理・ルールが解明されていない。どのような原理で制御すれば最適な効果が出るかに関する方法論もまだ確立していないんです。

オルガノ賞をいただけたのは、従来よりも細かいところまで見たからじゃないかなと思います。わたしは凝集膜ろ過における “粒子” に着目しました。もし膜の表面がマイナスで、凝集されたものの粒子がプラスだとすると、吸着してしまう。すると水を通すための圧力をかけるために、電気コストもかかるし、膜も詰まりやすくなってしまう。このように膜やその周辺の電子がどのような状況にあるのかは、水処理においてはすごく重要なんです。この点、わたしが膜について研究し始めた当初、目視できるレベルの粒子に関する研究しかされてこなくて。もっと細かいものに関しては理論がなかった。そこではわたしは、今まで研究されてこなかった0.1マイクロメートル( 1/1000 ミリメートル)レベルの世界を考察することにしたんです。ある中小企業に依頼して、観察するための機器も作ってもらいました。

メーカーも想定しない機器活用で 世界初の実験を実現

「世界初の試み」なんていっていただけたりもしたんですが、実はそんなに大したことではないです(笑)。当時その機器を製造していた業者は、凝集膜ろ過の分野で使われることを想定していなかった。医薬や、金属の粒子の観察を想定されていたんです。

2015年にはアメリカデューク大学土木工学科へ、同じ年の9月にはノルウェー科学技術大学水理環境工学科へ訪問研究者として留学しました。

当時日本では実験によって理論を立てようとしている段階でしたが、現地ではもう実験ではなく計算がメイン。理論研究は終わって、あとはいかにモデルを構築するかという段階に入っていました。

 

デューク大学に留学したときの先生が、授業をけっこうRAに任せていたのは印象的だったです。「研究者」は自分の研究に集中。あるいは学外とのネットワークづくり、学外活動の委員活動に充てていた。学内の役割分担もはっきりしているのは動きやすかったですね。

留学中は、日本に戻って博士論文を提出し修了するか、もう一年かけて研究をするかで悩みました。いろいろ考えた結果、時間をかけても納得のいく論文を書くことにしたんです。2018年の修了後しばらくは、山村研究室に残り、膜ろ過の研究は続けてます。なんだか、マニアックな人生ですねぇ、我ながら(笑)。昨年からは、藻類バイオマスの研究に従事しています。

”緑の小さい藻” が光を吸収して、光合成をして培養すると、油が出てくるんです。その油をエネルギー源にすることで、環境問題に貢献できると期待されていて。

バイオマス(biomass=生物 bio + 物質の量 mass)とは、元来は「生物現存量」を意味します。生体活動に伴って生成するもの、または生態学の分野で植物、微生物体の有機物を物量換算した量を表わす言葉でしたが、石油ショック以降は「エネルギー源としての生物資源」の意味を含むようになったんです[1]。化石資源由来のエネルギーや製品をバイオマスで代替することで、地球温暖化を引き起こす温室効果ガスの一つであるCO2の排出削減に大きく貢献できる。近年の原油価格の高騰や地球温暖化への意識の高まり、また原子力発電所事故に起因する脱原発の動きから、新たな再生可能エネルギーとして、微細藻類が産生するオイルなどの「藻類バイオマス」の活用に注目が集まっているんです。

 

微細藻類が産出したオイルだけを抽出するときに、余分な微細藻類を除く必要があります。このときに膜ろ過をするんだけど「微細藻類」というだけあって、かなり細かい粒子まで濾過しないといけない。ここで活きるのが以前行った“何マイクロメートル” 単位での膜ろ過技術に関する研究の知見なんです。

 

根本のところは一緒。膜技術。社会にどう活動して、社会にとって必要なことに貢献できるかを考えてるわけです。直近はユーグレナ等の民間企業も協働しているNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の事業に従事してます。その後は…自分の大きな夢はないけれど、わがままに続けたい。やりたいことをやれたらいいかなと思ってます。研究者として業績を上げたいとか、偉くなりたいとか、教授になりたい、といったゴールもあるのかもしれないけど、わたしは自分が純粋に好奇心に駆られるものを追求したいです。これからもワクワク眠れない夜を過ごしながら、自由に研究したい。

 

[1] https://algae-consortium.jp/about_algaebiomass

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