足で調べ ひも解く 

 “持続可能な” ライフスタイル

国立環境研究所 資源循環領域(資源循環社会システム研究室)

主任研究員

吉田綾さん

年間約 900 万トンにのぼるといわれる、日本の廃プラスチック排出量(※1)。

このうち約 90 万トンは海外へ輸出されています。しかし海外に運ばれた廃プラスチックの一部が適切 に処理されず、海洋汚染につながっていることが指摘されています。2019 年に改正された有害廃棄物 の越境移動を規制するバーゼル条約(※2)に基づき、2021 年 1 月から、汚れた廃プラスチックの輸出を規制 することが発表されました。

今回のインタビューでは、この汚れた廃プラスチックの判断基準作成に携わられた⻄原・特別奨学金 OG の吉田綾さんにお話を伺いました。

※1

2018 年の数値。一般社団法人プラスチック循環利用協会『プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状 況』2019 年 12 年発行より引用

※2

「有害廃棄物の国境を越える移動およびその処分の規制に関するバーゼル条約」

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―――すこし前に遡りますが、2018 年に”The editorial team of Resources, Conservation & Recycling 2018 Most Cited Paper Award for RCR” を受賞されています。このとき受賞されたのはどのような内容 の論文だったのでしょうか  ?

 

 

「使用済みブラウン管テレビとモニター」のリサイクルに関する論文です。

(フィリピンでブラウン管ガラスの投棄された川辺を調査する吉田さん:写真右から2番目)

東南アジア 3 カ国(インドネシア、フィリピン、ベトナム)と中国で、ブラウン管テレビとモニターが どのような技術によって、どのように処理されているのかを、現地のリサイクル技術と処理プロセス、 マテリアルフローの実態を調査したうえで、その問題点や改善策について論じました(※3)。

(フィリピンでインタビュー調査をおこなう吉田さん:写真左)

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※3

マテリアルフローとは

特定の地域で一定の期間内に投入される物質の総量、地域内での物質の流れ、地域外への物質の総排出 量を集計したもの。地域としては、日本全体のほか、都道府県、市区町村、企業などを単位として集計 できる。これらを定量的に分析することにより、経済活動による天然資源その他の資源の消費抑制の可能性を明らかにすることができる。
(一般財団法人環境イノベーション情報機構ホームページより)

「人間って、そんなに合理的じゃない」経済学に抱いた違和感

―――そういった廃棄物やリサイクルに関する研究をされるようになったのはなぜですか。学士号は経済学で取られていますよね。

学部生のときはどこかの企業に就職すればいいやと漠然と考えて、経済学部に進学したのですが、もともと経済はそんなに好きじゃなかったんです。

―――どうして好きじゃなかったんでしょうか。 経済学って、文系の学問と思われることもありますが、実際にはとても数学が必要で。

当時は、「人間は合理的な選択をする」というのを前提とした議論しかなかったのですが、私にはそのあたりがどうも腑に落ちなくて。実際そんな風に合理的ではないだろうと。納得がいかなかったんです。 ただ、経済学部にいたとき、ゼミで出会った先生がされていた研究のひとつが “ごみ” に関する研究だ ったんですけれど、それはおもしろいなと思ったのは覚えています。なので卒論は粗大ごみの有料化をテーマに書きました。

経済発展の裏で、蔑ろにされるもの

―――では大学生のときから、現在されている廃棄物やごみに関する研究課題に関心はあった、ということですね。

 

そうですね。わたしは 14 歳から 18 歳の 4 年間を中国で過ごしたんですけれど、当時の中国は経済の急成⻑期で。車はどんどん増える。建物もどんどん立つ。目まぐるしい変化のなかで「このまま、こんな生活を続けて大丈夫なのだろうか」という漠然とした不安を抱きました。

暮らしが豊かになる一方で、水はきちんと循環するのか、空気は汚れないのか、莫大に増えていくであろうごみはどう処理するのだろうか、と。

それと、中国にいた経験から、海外に興味をもつようにもなりました。国連とか、何かしら海外と関わる仕事をして、もっといろんな国に行ってみたいなあ、と。それで修士課程に進学するときは国際協力学を選びました。

―――大学院に入られてからはどのような研究を?

修士課程の研究では、途上国におけるごみ問題を研究しようと思っていて、修士課程一年目の後半に、 JICA のインターンシップで、中国事務所に三ヶ月間滞在しました。その中での出張でごみ処理場を見せていただいたりもしました。

 

―――また中国へ行かれたんですね。

最初は、パキスタン事務所に派遣される予定だったのですが、治安上の理由でいけなくなってしまいました。そこでモンゴルと中国どちらがいいか、という話になって「あなたせっかく中国語できるんだか ら、言葉がわかるところに行ったがいいんじゃない」と周りに言われて。それでまた中国に行くことになったという感じです。

―――それから博士課程に進学されて。当財団の奨学生になられたのはこのときでしたよね。

そうですね、都市工学を専攻して。当時、花木啓祐先生(現東洋大学情報関連学部情報関連教授)の研究室にいた時に、片山浩之先生(当財団 OB)から奨学金の情報を教えていただいたことがきっかけで ⻄原・環境奨学金に応募しました。

 

―――SummerCamp にも来てくださいましたね。いかがでしたか。

 

とても楽しかったです。修士から東京にきたものの、どこかに出かけたり、旅行したりはあまりしていなかったので、「軽井沢にいけるー!」みたいな感じで。けっこうウキウキでした。

―――博士課程に進学されてからはどのような研究をされていたのでしょうか。

「日本から輸出された再生資源が、輸出先でどういうふうに使われていて、どういう環境問題につながっているのか」といったテーマで研究をしていました。

※再生資源とは

使用済物品等又は副産物のうち有用なものであって、原材料として利用することができるもの又はその可能性のあるもの(資源の有効な利用の促進に関する法律・第二条第 4 項) 鉄スクラップや廃プラスチック、古紙などが含まれる。

再生資源はいわゆる “ごみ”由来のものも多いので、その一部には “リサイクルできないごみ”もくっつ いてきてしまって。それが適切にリサイクル・廃棄処理されずに、環境汚染を引き起こしていることが 問題になっていたんです。

―――こういった環境汚染はどうやって止められるのでしょうか。

たとえば、再生資源の一つである「廃プラスチック」に関しては、特に 2000 年代、日本から輸出される廃プラスチックの 50%〜60%が中国に輸出されていました。はじめは中国側も「必要だから」輸入し ていたのですが、だんだんと “品質基準” が厳しくされていって、2017 年末以降はもう一切入れないというふうに変わりました。

ただ、この中国による輸入規制のあと、中国に代わって東南アジア諸国への廃プラスチックの輸出が増 えて。そこでまた不適切に処理されて。その結果、東南アジア諸国においても輸入規制が実施されまし た。

こういった動きを受けて、いま国際的な規制も発展しているところです。

何を規制するべきか バーゼル法の基準案作成に参画

 

 

“越境ごみ” の貿易は、 “バーゼル条約” という国際条約(有害廃棄物の国境を越える移動およびその処分の規制に関するバーゼル条約)によって規制されているんですけれど、第 14 回締約国会議で、廃プラスチックの規制対象が新しく追加されました。

新たに規制対象となった廃プラスチック

・「有害な廃プラスチック」

・「特別の考慮が必要な廃プラスチック」

ただ、「じゃあ、具体的にどのような廃プラスチックが該当するのか?」というところは、各国の解釈にゆだねられているため、日本が廃プラスチックの輸出を行う際に、日本国内外の関係者が、「どの廃プラスチックが規制対象なのか」がわかるように具体化しないといけない。

そこで、バーゼル条約で新しく追加されたこれらの廃プラスチックをどう定義するか、日本政府や関係者はどのように対応するべきか、を決めるための委員会が昨年発足されました。このときの委員に入れ ていただいて、規制をかけるべきプラスチックとはどういうものか、その考え方を整理する議論に参加 しました。

―――「廃プラスチックの輸出に係るバーゼル法該非判断基準策定のための検討会」ですね。委員構成を見ると、女性は吉田さんだけですね。

環境研究は分野によって女性の割合が全然違いますが、廃棄物の分野では女性は少ないです。

―――最近はこれまでマイノリティーだった女性なども含め、多様な人材が活躍できる社会に変えよう とする動きがあります。吉田さんの周りではいかがでしょうか。

周りを見ていても、女性が続けていくのは難しいなと思うことが多いですね。博士号をとり終えるタイミングがちょうど20代後半だったりして。

―――結婚、出産を迎えるタイミングと被ってしまったりするわけですね。

そうですね。研究を続けていくことが難しかったり、研究職じゃない方に行かざるを得ないという人も います。

 

―――どうして結婚、出産と研究の両方が選択できないのでしょうか。

博士を取った後すぐに常勤の職につくのは難しい状況です。任期付きのポストでは、産休育休で休んで も、任期が延⻑されないことがありますし、任期中の業績が少ないと、次のポストを探すのが難しくな ります。そのほかに、配偶者の転勤等による中断などもありえます。その後は「常勤の」職を探すのだ けでもかなり厳しいですし、それにまた戻れたとしても、⻑時間労働を是とする風土がまだまだあり、 家庭生活との両立が難しいのではないかなと思います。

最近朝日新聞で、研究職から非研究職にうつられた女性の方のインタビュー記事を読んだのですが「日本には、ライフステージに応じてペースを緩める文化がない」という指摘はその通りだと思いました。

女性研究者の働き方 欧州との違い、なぜ生まれる?

この点、ヨーロッパの研究者と話していると「 “今年は”〇%で働くのよ」といわれて驚いたことがありました。育児のために仕事を減らして、”今年は” 働く時間を〇割に抑えて、調整するというんです。そういった形で、仕事と家庭の両立がしやすくなるといいなとは思いますね。

(スウェーデンで調査をおこなう吉田さん:写真中央)

 

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今の日本にも “時短” の制度自体はありますが、研究職でつかっている人はほとんどいないと思いま す。時間で区切った仕事であれば選択できると思うのですが、そうじゃない、裁量労働に近い職で、業務量の調整ができないと、実質選べないのではないでしょうか。

―――吉田さんは、そんな厳しい環境の中で、現在子育てもされながら、研究員としてご活躍されていますが、何か秘訣のようなものがあれば教えてください。

わたしの場合は、夫が同業なので、お互いができる範囲でなんとかうまく家事育児を分担できていますね。お互いの出張が被ったときなんかは、東京駅で子どもを「バトンタッチ」みたいなこともしてました。

あと私は普段の職場と家がすごく近いので、通勤時間が短いこととか、最近はテレワークが少しできる ようになったことも、子育てとの両立に寄与していると思います。

―――最後に、これから研究されたいこと、研究を通じて実現したいことなど、今後の抱負を聞かせてください。

 

これまでに、いろいろな研究に携わってきたんですけれど、今関心を持って取り組んでいるのは “ライ フスタイル” に関わる部分ですね。

国連の SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)や、これから人がどのような暮らしをしたら、子どもたちの代も、そのさきも人と自然が共存していけるか、といったテーマが掲げられている中で、目下、東南アジアなどの地域では、経済発展とともに人の暮らしのレベルが上がって、より多くの人が家電製品を使うようになっています。

 

特に暑い地域なので、エアコンを使うことによる電力消費がすごく増えていて。このような中で、どういう家庭が、どういう考え方でエアコンを使用しているのか、どれくらいのペースで、各世帯が何台くらい増やしているのか、といったエネルギー消費行動の詳細を探るための調査に携わったりしています。

(ベトナムで世帯訪問調査をする吉田さん。360 度カメラで家の内外を撮影する)

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また、日本国内でも、ライフスタイルに関する調査を最近はよくしています。 研究仲間の間で、「日本人はモノをたくさん持ってるよね」という話になって。

それは、経済が発展して、暮らしが豊かになるにつれて、モノをたくさん持つようになるということ で。だからこそ “断捨離” や “シンプルな暮らし” といった言葉が流行ったり、“片づけコンサルタン ト”の方が活躍されたりするわけです。

 

そして、こういった文脈で目指されている「本当に必要なものを選んで暮らすこと」と、自然環境にと って「持続可能なライフスタイル」の本質は近いのではないか?であれば、どのようにしたらシンプル に生きられるのか? ライフスタイルを変えられるのか? という問いが立てられて。これらの問いを探る ために「片づけに成功した人」に話を聞きにいくことになったりしました。

―――けっこう社会学的な調査もされているんですね。

 

もともと理路整然としたものよりも、もっとドロドロぐちゃぐちゃしたものというか、生身の人間がどういう風に暮らしているのかに関心があるので、いま取り組んでいるような調査にも、もともと興味が あるのだと思います。

今後もこうした調査を通じて、数字だけではわからない文脈や側面についても調べながら、持続可能な暮らしのあり方を紐解いていきたいと考えています。

(タイで世帯訪問調査をおこなう吉田さん:写真中央)

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