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祝!監訳本ベストセラー記念インタビュー

国立環境研究所 資源循環領域(資源循環社会システム研究室)

主任研究員

吉田綾さん

※所属、肩書はインタビュー当時(2021年10月)のものです。

なにを以て「地球に優しい」と言えるのか ? 140 の問いから考える

イギリスのデジタル雑誌『pebble(ペブル)』をご存知だろうか。

 

サステナブル(持続可能)な生活をテーマとする同誌は、ジョージーナ・ウィルソン=パウエル氏により創刊された。創刊する前までは、ドバイを拠点に[1]世界中を旅する生活を送っていたウィルソン=パウエル氏。旅行誌記者だった当時の生活をこう振り返る。

 

「年25回以上飛行機に乗り、1週間で小さな山になるほどのペットボトルを消費していた。多大なエネルギー消費とゴミの排出を伴うことに、やがて罪悪感を抱きはじめた」

 

ペブルの創刊から4年の歳月を経て完成した著作が、2021年9月発売と同時にAmazonベストセラーに輝いた『これってホントにエコなの?』(リサイクル部門・原著タイトルは “Is it really green? “ )。監訳を西原・特別奨学金 OG吉田綾さん(国立環境研究所資源循環領域資源循環社会システム研究室主任研究員)が手がけたということで、監訳本ベストセラー記念インタビューを行った。

 

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吉田さんが監訳された『これってホントにエコなの?』Amazon画面のキャプション。

(2021年12月23日)

―――「そもそもこの本はグリーンなのか」の説明から始まるあたり、この本の徹底ぶりを感じます。本の原料となった紙やインクを選ぶ過程で、どのような考え方で「エコ」な選択をしたのか。この説明にはじまり、本の内容は私たちが一日の中で、あるいは一生の中で行う(料理・シャワー・服選び・趣味・仕事・家族や恋愛・旅行・移動手段・墓作りまで!)あらゆる選択を網羅していて。正直なところ「こんなに意識しないといけないのか・・」と圧倒されてしまいました。いったい何から手をつけて、どこまで実践すればいいのでしょうか。

エコな一日、エコな一生とは

吉田さん:この本で扱われているテーマは、それぞれについて一冊の本が書けるほど議論の余地のあるもの。奥深い、様々なイシューが含まれています。生活の中の様々な場面について書かれているので、“どれから手をつけるか” におそらく正解はなくて。ひとりひとりが自分の興味のあるもの、できそうなものから実践していけば良いのではないでしょうか。実際に行動を変えることで、、意識が変わって、生活が変わって、新しい習慣ができる。それが大きな変化につながっていくのではないかと思います。

 

―――エコを推進するという文脈では “Mottainai ” “Kintsugi” など、日本独自の概念が世界に発信される一方で、逆に日本語にはない・日本由来ではない概念も存在し、翻訳書によって多くの新たな考え方が日本にもたらされてきた、と理解しています。そういった意味で、今回吉田さんが監訳されている中で、特に日本語での表現に苦労された言葉や概念はございますか。

 

吉田さん:表現という点でも、内容という点でも、日本の方がこの本を手に取ったときに違和感なく読んでもらえるように、という点をかなり意識しています。欧米の経済・社会的な背景でしか当てはまらない部分については、加筆や修正を行いました。もっとも重要なのは、日本の読者により正確な情報を伝えることだと思ったからです。

Japan Editionをつくる 監訳者の役割

―――29ページに「食器を洗うときには、何を使うべき?」というテーマがあります。ここでは日本で昔から使われている棕櫚(シュロ:ヤシ科の植物の一つ)のタワシに言及されています。

 

吉田さん:実は、日本語に訳す段階で、原著にない文章を書き足した部分もあります。そのタワシの部分も、原著には記述が無いです。出版社の方から「ここは海外の話だけど、日本の話に置き換えられますか」といった提案もあり、完全に書き替えてしまったものもあれば、少し情報を足したものもあります。

 

例えば 40-41ページの「食べ物と飲み物」に関するパートに「大豆がもたらす環境への影響とは?」という章があります。ここにでは “豆腐製品を購入するときは、凝固剤に天然ニガリを使用している、消泡剤不使用のものを選びましょう。” と書かれていますが、この文章はもともと原著には存在せず、監訳の過程で私が書き加えたものです。

 

原文では、「天然」と表示されている豆腐に原油を精製して得られるヘキサンという液体が使われている可能性と、ヘキサンがラット(ネズミ)に脳障害を与えたという研究について書かれていたのですが、出版社の方と「これは日本には当てはまらないのではないか」という話になりました。インターネットでできる限り調べてみましたが、日本で作られている豆腐に同様の危険性があるとは言えないだろうという判断に至り、先ほどのような表現に書き替えました。

 

―――表現だけでなく、書かれていること自体を吟味、再検討するのですね。監訳っていうよりも、編集という感じがしますね。

 

吉田さん:監訳者の役割は、著者や出版者の方のご意向によって変わるのだと思いますが、今回は本に書かれているテーマに関して「日本ではどうなのか」再検討を行うところから、必要があれば改めてリサーチを行い、情報を整理するところまで関わらせていただきました。

 

欧米人との認識のギャップが生まれる 背景理解に寄与

 

―――吉田さんの研究課題は「脱物質志向ライフスタイル研究」。普段の研究と、今回の監訳本の内容とは非常に関連性が高いですが、新たに得た知見などはございますか。

 

吉田さん:これを読んでいて勉強になったのは、エコに対する欧米人の意識と日本人の意識とのギャップに関する部分です。特にプラスチックに関しては、日本の消費者はプラスチックごみを減らそうという意識がとても低いのですが、この理由については以前からなぜだろうと不思議に思っていました。今回の監訳を通じて、欧米では「プラスチックの大部分は埋め立てられる」という大前提があるというのが日本との大きな違いだと感じました。日本ではプラスチックはリサイクルされるのが「あたりまえ」なので、使い捨てのプラスチックを減らそうという発想にはならないのかもしれません。欧米では、プラスチックを使い続ければ環境中に堆積することが目に見えて分かるからこそ、行動を変えるモチベーションや意識が高まるのだろうと思いました。

 

―――ありがとうございました。