⻄原・環境奨学⾦ Online Summer Camp 2021
米国からゲスト招待 はじめてのWebinarを開催しました
コロナの影響により、2020年から2年連続でサマーキャンプは中止。しかし、西原育英文化事業団にとって、サマーキャンプが大切なものであるということに変わりはありません。そこで、2021年 8 ⽉ 28 ⽇(土)初めての試みとして “オンライン” サマーキャンプを開催しました。
「ネット環境とデバイスさえあれば、世界のどこにいても参加できる」というオンラインの利点を活かし、今回はアメリカ・アリゾナ州立大学大学院博士課程に在籍しながら、感染症数理モデル研究者としても活躍している、現役奨学生をゲストとしてお招きしました。
軽井沢には集まれなくても “にしはら” のゆるーい繋がりを、どうにかなんとなく感じていただけるような機会をつくりたい。そんな想いで企画を練りました。
(画像上は、今回のサマーキャンプにゲストスピーカーとして講演してくださった山本奈央さんがアリゾナ州立大学で招待講演に登壇された時のパンフレット)
日本時間の午後3時。いよいよキャンプの幕が開けます。参加者全員がひとつの画面に集い、まずは自己紹介がはじまります。理事の西原が紹介を挟みながら、学生の方は、自分の専攻・研究分野などに触れながら。社会人の方は、普段どんなことをしているか、お仕事や趣味に話を広げながら、思い思いに語ります。
(開催にあたり作成したパンフレット。背景画像は、みなさんお馴染みの軽井沢に広がる森です)
続いて、現役奨学生による講演へ。ゲストスピーカーが画面に登場します。アリゾナ州立大学大学院で感染症数理モデルを研究されている、山本奈央さん(アリゾナ州立大学大学院博士課程)、現地時間は夜の11時です。
(上は、山本さんの講演で画面共有されたスライド)
出身は大阪で、父親の仕事の都合で何度か転勤をし、幼少期はインドネシアの日本人学校に通っていたという生い立ちから語られました。そしてインドネシアからの帰国後は日本で過ごし、20歳になると再び海外へ。当時「全く英語が話せない状況」だったものの、その後ブリティッシュコロンビア大学・理学部数学科へ進学。日本での研究経験なども経て、現在はアリゾナ州立大学大学院博士課程に在籍されています。いまは講師として、授業を週に3コマ持ち、教育にも従事しながら、博士課程で自分の研究も並行して取り組まれているのだそうです。
「この悲しみを無くしたい」研究の原点は、Sympathy だった
どうして研究者になったのか。山本さんを動かすモチベーションの原点に話が移ります。山本さんの原点は、高校生のときに観た ”RENT”。RENTとは、1989年のニューヨークを舞台にしたミュージカル映画です。HIV・薬物依存などをテーマに、当時の社会では特にマイノリティに分類された若者たちの苦悩や悲哀が描かれています。
RENTを通じて感染症に苦しむ人たちに出逢い「この人たちの悲しみをなくすにはどうすればいいか」と自らに問うたことをきっかけに、研究者の道へ。そして今も山本さんを研究に駆り立てる原動力となっているそうです。
※山本さんのホームページはこちら
https://naoyamamoto.jimdofree.com/
現在の研究領域はHIVなどの性感染症やCOVID-19を対象とした「感染症数理モデル」が中心。常微分方程式・偏微分方程式・医療統計・ゲーム理論・ネットワーク理論・グラフ理論などを使いながら、「より精巧なモデルを構築していきたい」と今後の展望を語ります。では、山本さんが研究の中心に据えている、感染症数理モデルとは何なのか?いよいよスピーチの本題に入ります。
(講演を行うアリゾナ州立大学の山本さん)
現在日本ではワクチン接種が進められているが、どれだけ接種が進めば「十分だ」と言えるのか?また、それはなぜなのか?ワクチンを接種した人の多いコミュニティを作ることの意義を、数理モデルを用いて説明してくださいました。
今回のオンラインサマーキャンプにおける講演では、あくまで感染症数理モデルの “入門” をお願いしたため、冒頭では感染症数理モデルの最も基本的な考え方である “基本再生産数”が紹介されました。基本再生産数は「ある感染症に対して全員が感受性を持つ集団の中で1人の感染者が感染性を有する期間に再生産する二次感染者数の平均値」と定義されます。わかりやすく言えば、ある人が、平均何人に感染させるか?を表した数値(1人の感染者が生み出す、二次感染者数の平均値)です。したがって、この数値が “1よりも少ない” と感染症は流行しません。
続いて、SIRモデルの紹介にうつります。SIRモデルとは、基本再生産数を算出するときに使われるモデルです。
1 感受性(感染症への免疫がない人々)
2 感染性(感染症に現在かかっている人々)
3 隔離や回復(感染症から回復して、感染症への免疫が生じた人々・死亡者もここに分類される)
人口を上記の3つにわけることで、感染症の流行動態を捉えることができる、と言われているのだそうです。
その後、テーマは「コロナを機に変化した大学の役割」へ。アリゾナ州立大学は、『アメリカで最も革新的な学校』に2016年から5年連続でNo.1に選ばれるなど、イノベーションの観点で、特に有名な大学です。コロナ対応も迅速で、まだ感染件数が数件程度だった頃に、すでに州に先行してオンラインへの移行が発表されたこと(2020年3月)など、現地のコロナ関連の状況について山本さんが教えてくれました。州のロックダウン後2020年3月から8月は「一歩も外に出ない生活だった」そうです。
「背中で」語れないオンライン教育 ネットワーキングに限界も
コロナによって教育、研究活動はどのように変化したか。
山本さんは次のようにまとめてくださいました。
・研究の生産性の変化には個人差がある(上がった人も下がった人もいる)。
・研究はオンラインで問題ないが、教育はオンラインでは難しい部分が多々ある。
・世界中で行われているセミナーに参加できる一方で、ネットワーキングが難しい。
教育活動に関しては、ときに学生に「背中で語る」必要のあることや、一部の学生に対して精神的なケアが必要なときもあることを挙げながら、オンラインコミュニケーションの弱点を指摘。
研究活動に関しては、(山本さんの研究分野の特性もあって)基本的にはオンラインで問題がないとしつつも、研究者同士のネットワークづくりの難しさに言及。「最近ネットワーキングの場として有名なワークショップに参加したものの、”オンラインでの出逢い” はその場で終わってしまい、仲良くなりたい人と、ワークショップの後に話に行くことができなかった。また、深く議論し、繋がり合う機会にはしづらい」と振り返りながら、最近のエピソードをシェアしてくれました。
下がり続ける日本の研究力 米との差を生むものは何か?
最後に、テーマは ”日本とアメリカの研究環境の違い” に。山本さんは、双方での研究経験から「米国の方が、博士課程の学生でも資金的なサポートが与えられる環境があるし、与えられるタスク・ワークの内容という点でも、研究に集中できる環境が整っている」と違いを説きました。
日本で研究していた頃、留学生の役所手続きへの同行など、研究とは関係のない業務があまりにも多かった話をすると、教員・学生の参加者が大きく頷きリアクション。このテーマでは方々から、日頃の愚痴が噴出しました。(このテーマに関しては、どうしたら日本の研究環境を改善できるか、次回のオンラインイベントで、前向きに議論を深めていきましょう)
真面目な議論の後は…待ちに待ったリモートあみだくじ!
山本さんの講演のあとは、おたのしみ抽選会へ。
今回は「リモートあみだくじ」を開催しました。
参加者ひとりひとりが、あみだくじを1本ずつ選び(ちゃんと参加者全員分、ささやかながら賞品を準備しました。ハズレくじ無しです。)理事の西原が、トップ賞(廃タイヤ製サンダル)から、ひとつひとつ開封していきました。
さあ、盃を片手に 恒例の駄弁りタイムへ・・・
あみだくじが終わり、解散した後は、居残るメンバーで延々とおしゃべり。Zoomのルームは夕方5時すぎの終了から夜の8時まで開放し、その間はおのおの好きに出たり入ったりしながら、おしゃべりを楽しみました。
こうして、はじめてのオンラインサマーキャンプはこうして無事に幕を閉じることができました。
最後、解散する前に「すごく楽しかった」「年にもう数回やりたい」といってくださった参加者の方がいらっしゃったことが、大変心に残っています。はじめての試みで、たくさん不備、行き届かないところがありましたが、次回は今回の反省をしっかりしながら、よりみのりのある時間を作れたらと考えています。
ご協力・ご参加いただいた皆さん、貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました。
(画像は当日のためにお作りした「しおり」です。2022年は、もっと似せられるように頑張ります!)