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「ふるさとを守りたい」

自然の脅威を科学する 防災のスペシャリストへ

復建調査設計株式会社沿岸・地震防災部地震防災課​

岩井鉄平さん

※所属はインタビュー当時(2021年1月)のものです。

古来より神仏をふくめた “超自然的存在の怒り” とされてきた天変地異*。
 

現在では “科学的に” 原因が分析され、災害の予測・対策技術も日進月歩の最中ですが、未だ世界の自然災害の被災者数は年間約1億6000万人 [1] にも上ると言われており、その約半数を占めるのが「アジア」です。日本も災害大国・災害多発国の一員であり、世界の災害被害額における16%を占め、特に地震に関しては、世界の地震(マグニチュード6.0以上の地震回数)の5回に1回 [2] が日本で起きています。

今回のインタビューでは、そんな日本及び世界へ甚大なインパクトをもたらしてきた災害への対策に携わる西原・環境奨学金OBの岩井鉄平さん(復建調査設計株式会社沿岸・地震防災部地震防災課)にお話を伺いました。

*「天変」は自然災害・暴風雨・長雨・雷などからもたらされる異変、「地異」は地震・火山噴火・洪水・海嘯など地上に起きる異変。

[1] EM-DAT:The OFDA/CRED International Disaster Database

[2] http://www.bousai.go.jp/data/img_2003_06_19/fig1-1-1.gif

故郷の日常を奪った “土砂” 失われた74名の命

―――岩井さんは呉高専(呉工業高等専門学校)在学中に、西原・環境奨学金の高専(高等専門学校)枠の奨学金をとられていますね。

もともとはどうして高専を選ばれたのですか。

高専に進学するのを決めたのは中学生のときなので、そんなに深くは考えていなかったと思います。友達も行くし、家も近いし、といった感じで。あとは漠然と「工学系であれば就職の時に困らないかな」と考えていました。

―――高専では何を学ばれましたか。

 

土木を学びました。大学や大学院では最初に社会基盤を学んでから、その後に土木を学ぶという流れだと思いますが、高専では早い段階から専門的なことを学びます。なのでわたしは入学してからすぐに土地の測量や、コンクリートに関する勉強をはじめました。

 

それから高専に在学していた時に東日本大震災が起きて。自分の中で、災害に対する関心がなんとなく高まったのを覚えています。さらに平成26年8月には、地元広島の広島市内、広島市安佐北区と安佐南区を中心に大規模な土砂災害が起きました。

 

この時わたしが所属していた研究室の先生が、被災地にいっしょに連れて行ってくれて。74名もの方が亡くなり、住宅の全壊は174戸・半壊が187戸[1]にもおよぶ甚大な被害の現場を目の当たりにして「防災についてもっと学びたい」という思いが強くなりました。

 

また、当時わたしは「広島県の土壌が、水を含んだ時にどのように変化するのか」について研究していたのですが、このとき起きたこと(豪雨による土砂災害)はまさに研究していた内容そのものだったんです。だから “学校で勉強していること”が、”自分たちの住んでいるところを一変させた出来事”に、こうやって繋がるのか!というのが、よりはっきりとわかるようになりました。

 

[1] http://www.bousai.go.jp/fusuigai/dosyaworking/pdf/dai1kai/siryo2.pdf

現実の災害は、「基準」を超えていた
なぜ起きたのか?土砂災害の条件を見極める

―――広島は土の性質から見て、災害が起きやすい場所だったということでしょうか。

 

そうですね。

 

広島は災害全体で見ると比較的安全な地域なのですが、土砂という点では災害に弱くて。なぜなら広島にある土は、”真砂土”と呼ばれるちょっと特殊な土だからです。この土は、水を含むと弱くなりやすいと言われています。

 

高専ではこういった、いろいろな土地に分布する土それぞれの特徴を知ることを通じて、災害が起きる前提条件を把握するための勉強をしていました。端的に言えば、「土がどういう状態になると、災害が起きるのか?」という問いを探求するという感じです。

 

―――それは「この地域にはこの土があるから、雨がこれ以上降ったら危ない」と、災害予測に活かされるイメージでしょうか。

 

そうですね。

 

―――高専を卒業された後は何をされましたか?

 

専攻科に進みました。専攻科は大学院などに比べると授業がたくさん有るので、一週間のなかでも一日予定が空くような日はほとんどなく、一日だけ、午後だけ暇になるというような、わりと忙しいスケジュールでした。

 

―――専攻科に進学されたのはどうしてですか?

 

研究が面白かったし、大学院にも行きたいなと思っていたからです。

 

―――”研究が面白い” というのは、具体的にはどういうところが?

 

高専にいた時から、災害現場にも足を運びながら勉強することができたので、何の役に立つのかを実感することができました。“研究室の中で、論文を書いて終わり”ではなくて。現実の社会との繋がりがわかるのが面白かったです。

 

それから、土木の研究では ”地盤(建物を据える基礎となる土地のこと、建物を建てる地表からある深さまでの地層をさす)”を分析するのですが、地盤を構成する土って、自然のものなので中身が ”一様” ではないんですよ。これは人工的に作られたものとの大きな違いです。

 

例えば、橋やトンネルのようなものは、どこで切り取っても基本的に成分は同じですよね。場所によって形状が変わるだけで、中身は均質、均一。一方で自然の土は、上に草が生えているか、木が生えているかだけでも状態が全然変わってくる。

 

さらに、豪雨などの影響で土に変化が起きるとき、土の上下を取り巻く様々な要素が複合的に影響します。だから”何が結局問題を起こすのか” の予測も一筋縄ではいきません。

 

それから、当時まだわからないことがあって。卒業論文は出したものの、何かまだ足りない気がして、もう少しやりたいなと思ったんです。

 

―――わからない、というのは何が?

 

平成26年の土砂災害を、なぜ防げなかったのか、ということですね。

 

当時の土砂災害対策のなかで、「こうしておけば大丈夫だ」という前提になっていたこととは違うことが現実に起きてしまった。想定外のことが起きてしまったんです。

実務をはじめて認識した、学際・多角的視座の重要性

―――最後に、今後の目標などあれば聞かせてください。

 

建築の実務の仕事をはじめて、もっと広い分野まで知らなければならない、と感じることが多くなりました。

 

例えば、いままでやった仕事でいうと「空港で地震が起きたときにどうすればいいか」の対策を打つとき、滑走路の敷かれているところの地盤改良をします。

 

この時、私は土木のなかでも土に関することだけ研究してきたのですが、実際の社会では、土の上に道路や滑走路があって、それだけでなく近くに川が流れていたり、海があったりする。

 

だから空港の地盤改良をするために、滑走路を剥ぐときにも、道路の基準はどうなっているのかなど、土以外にも、もっと広い範囲のことも考えなければなりません。

 

このように、実務では今まで自分が研究してきた以外の色んな分野が関わり合ってくるので、今後はより広く、いろいろな視点から総合的に、”安全” という概念を捉えることができるようになりたいなと考えています。

―――どういう想定をされていて、実際には何が起きたのでしょう?

 

まず、そもそも土砂災害の対策をするためには「どれくらいの量の土が流れてくるのか」土量の予測をする必要があります。この量は、それぞれの地点で「風化している土の量」をもとに算出されます。

 

次に、「流れ出た土が、どこを通っていくのか」の予測をします。土がどのような経路をたどるのか。その道すじ、動線をシュミレーションします。このとき、土は山の斜面のうちの “いちばん低いところ” (いちばん深い谷)を流れて行くという前提に立ちます。

 

したがって、雨が降ったときに土砂を抑えこむためのダムをつくる際には「山のいちばん低いところ(最も深い谷)に、それぞれどれくらいの量の土があるか」をもとに土の量を算出し、その量に耐えられるようにするんです。

 

しかし、平成26年の土砂災害では、最も深い谷のみならず、その谷から分岐した別の場所でも土砂災害が起きてしまった。だから一つの土石流の流れだけを想定して作られたダムが、二つめの土石流の流れに耐えられずに壊れてしまったりしました。また、土砂が “流れる” と想定されていたラインの途中で、すでに土砂が堆積してしまっていて、流れ自体が変わってしまったりもしました。その結果、本来土石流が流れるはずのなかったところ、対策の薄かった部分に土砂が流れ込んでしまったんです。

 

阪神淡路大震災でも、東日本大震災でも、今回のコロナもそうですが、何か大きなことが起きると、世の中が大きく変わりますよね。広島でも同様に、この土砂災害をきっかけとして、基準などが大きく変わりました。私が今仕事で携わっているなかでも感じるところです。家を建てられる範囲を決める基準なども、この災害を機に変わりましたし。

―――その後 広島大学大学院に進学されるわけですが、進学に伴う奨学金延長を利用されて、大学院修士課程でも奨学生を続けていただきました。大学院では何を研究されましたか?

 

専攻科のときと同じく、土の研究をしていました。でも、研究テーマは少し変わりました。

 

大学院に入ってからは、地震が起きた時の土の強さについて研究するようになりました。川の両岸によく土が高く盛られているところがありますよね。そういった”盛り土” と呼ばれるところが、地震の時にどのような状態になるのか、地震が起きた時にも安全と言えるのかについて調べるような研究です。

 

それから大学院にいたころは研究者になるか、就職するか、就職するならどのようなところで働くか、いろいろ悩みましたね。

 

―――サマーキャンプが、進路を決めるための参考になったとおっしゃっていましたよね。

 

そうですね。

 

西原・環境奨学金のサマーキャンプでは、自分が「どの道をいこうか」と立ち止まっているとしたら、枝分かれしたその道の先にいる人たちが一同に会していた印象がありました。博士課程にいらっしゃる方。研究者になられた方。民間企業で働かれている方。どれも自分が迷っている道だったので、とても参考になりました。人生のモデルが全部ここに、という感じで。

 

―――今はどのようなお仕事をされていますか?

 

今の仕事は、建設コンサルタントです。おそらく「〇〇建設」と名のつく会社は耳にされたことがありますよね。そういった会社が、なにか道路や建物を作るときの設計や、設計のための調査に携わります。

 

例えば道路でしたら、どこに道を通すか、どういう道路を作るか、その道路を通した場合、どれくらいの価値があるのかの費用対効果を見定めること、決めることが必要になります。そういった設計の段階でのコンサルティングを行うことが主な仕事です。

 

私の部署では、特に空港と港などで地震が起きた時の液状化に関する調査をしています。その土地の土の特性と、そこで過去に起きた地震の記録をもとに、今後地震が起きたらどうなるのかの予測をします。この時、液状化が起きてしまうだろうということになったら地盤を改良します。地盤を改良する際も、それぞれの現場の状況に応じて、一番経済的な方策を考える必要があります。

―――地震といえば、最近よくゆれますよね。そろそろ大きなのが来そうで、とてもイヤなのですが…

 

そうですね、南海トラフ地震はいずれ来る前提で既に色々な対策を進めています。防災の基準はこれまでに阪神淡路大震災・東日本大震災を機に基準が変更されてきましたので、いまの建設業界では巨大な地震も想定しながら、建設を進めています。だから、そんなに壊滅的にモノが壊れたりはしないんじゃないかなと考えています。

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