他人と同じ道は走らない

鹿児島大学理工学域工学系理工学研究科(工学系) 建築学専攻助教
2015年篠原記念賞奨励賞受賞

松鵜さとみさん

省エネルギー効果が期待される、地中熱を利用した空調システム・アースピットにおける空気質(微生物)汚染や貯水槽の水質汚染と感染症などを研究分野とする西原・環境奨学金のOG・松鵜さとみさん。

現在鹿児島大学学術研究院理工学域工学系(理工学研究科建築学専攻)の助教として教鞭をとられている松鵜さんに、研究者になられた理由・現在の研究テーマ・研究者としてのキャリアを歩む上で意識されていること等について伺いました。

どうして研究者になられたのでしょうか?

いろいろなことが重なって今の進路に至っているのですが、人に勧められたというのは理由の一つにあると思います。修士課程にいた頃に、ある先生がドクターにいくこと勧めてくださったんです。

私の研究を見て「これ面白いし、今までそういう視点って無かったから。とりあえず受けてみたら」と背中を押してくださって。研究するテーマについても「せっかくだから自分が面白いと思ったこととか、気になること、やってみたいと思ったことをしてみなさい」とおっしゃいました。

そこで私は「実は今こんなことが気になっていて」と当時モヤモヤしていたことを話しました。そのとき話した問題意識が、いまの私の研究のベースになっていると思います。

どんなことを話されたんですか?
当時「省エネ」に対する意識からアースピットという空調システムが注目され、導入も進められていたのですが、その施設内での結露や微生物汚染などの問題について気になっていたんです。省エネにはなるのかもしれないけれど、健康面ではどうなの?とね。

アースピットというのは室内に取り入れる外気を、地下のピットと呼ばれる空間に通すことで、地中熱による予冷・予熱を行い、外気導入時のエネルギー損失を低減するものです。

 

例えば、九州だと夏には35℃あたりまで気温が上がります。でも地中は17℃位のほぼ一定に保たれている。そこで、地下に空気を通すことで、機械を使わなくても空気温度を25~30℃くらいまで下げることができる。だから低コストでかつ省エネルギー効果という点で大変高く期待されています。

 

ただ一方で、外の高温・多湿の空気を冷やしていく過程で、さらに高湿度状態になり結露しやすく、外からはカビの元となる胞子なども入ってくる。夏だとアースピット出口の空気温度は25~30℃、相対湿度が70~100%位になるのですが、この温湿度域はカビの増殖に適した温湿度とほぼ同じで、健康面では大丈夫なのかという点が問題になるわけです。実際に、1990年頃に住宅への導入が試みられたことはあるそうなのですが、結露やカビが問題となり断念したという経緯があるそうです。ちなみに私の恩師は、当時その研究に携わっていた人です。

 

省エネルギーも、コストの節約も大切なことですが、同時に中で暮らす人にとっての健康も忘れてはならない観点です。だから私はアースピットを導入した施設の空気質や建物のメンテナンスをどうするか、許容できる範囲がどこなのかについて調べているわけです。

 

現在私が在籍している鹿児島大学の中にもアースピッドを入れている施設がありますので、そこの空気質を調べて、空気中の微生物を遺伝子解析して、どういう微生物が今いて、その中でも何が人間にとって有害なのか、特殊に持ち込まれたり、増殖しているものがないか等を調べています。

なるほど。それから松鵜さんは2015年に公益社団法人空気調和・衛生工学会の篠原記念賞奨励賞を受賞されていますよね。おめでとうございます。その賞もアースピットに関する研究に対してのものなのでしょうか?

いえ、篠原記念賞奨励賞は給排水に関する教育・研究に対するものです。いま主に2つの研究をしていて、その賞は給排水に関する教育・研究に対して贈っていただきました。具体的には貯水槽の水質に関するもの。平たくいえば建物の水周りに関する研究です。

 

建物の水周りって、公衆衛生や感染症予防の観点から水道法をはじめとするルールがたくさん敷かれているのですが、実際は、ルールの本質やその経緯を知らずに、省エネや節水のためなどといってルールが守られていなかったりする現状があります。

 

また、例えば水系感染症の原因となる細菌の一つ・レジオネラ属菌は、現在国内で年間2000人程の方が感染し、場合によっては集団感染や死亡(毎年50~70人)することもあります。検査技術等の発達もありその感染症患者の報告件数は増えているのですが、レジオネラ属菌が発見されて40年以上経った今でも、これを予防するルール、技術や設備はあっても、まだまだコントロールできておらず、問題も残っています。

 

このように水系感染症を予防するための体制があっても、コントロールできていないことに対して危機意識を抱いているところです。

松鵜さんのお話を聞いていると、省エネなど世間的にホットなトピックとはあえて違うところに着眼点を置かれているように感じます。
確かに私がいま研究しているテーマは、建築設備の業界の中でも、建築業界の中でももっとも重要視されている訳では決してないと思っています。空調と比べて給排水は研究者自体の数も少ないし、みんなが注目しているテーマは他のところにあると感じています。

 

ただ、みんなが一斉に注目度の高い話題の方に向いてしまうがために、置き去りにされて、手薄になってしまっている分野がある。その中で、比較的自分が得意とする手法やテーマを見つけて深掘りすることでしか、私には “勝ち目”がない。そんな意識は持っているのかもしれないですね。人と同じ道は走らない、という。

研究者という仕事、選んで良かったですか。

う~ん、色々なことがあったので・・・。ただ、後悔はしてないです。

今までなんとか続いているので、適性はあるのかも?と思います。

仕事をしていて、何かに没頭できる「オタク」には向いている仕事だとは思います。アニメでも漫画でもなんでもいいんですが、何かをずっと探求できる人っていますよね。私はそれがたまたま微生物だった、という感じで。昔付き合っていた人に「俺とカビのどっちが大切なんだ」と言われたこともあります。

 

でもそれくらい何か一つのテーマや問いを掘り続けることができる人には向いている仕事だなと思います。私の研究は、実験が微生物の成長速度や台風などの天候に左右されることも多く、急な予定変更で休日も大学に行って研究をすることもあります。そういった点では大変だなと感じたりはしますけれどね。

最後に西原・環境奨学金を選ぶかどうか悩んでいる方にメッセージをお願いします。
ドクターの奨学金って、所属大学が指定されているような指定校制のものが多かったりするのですが、西原・環境奨学金は、出身校を問わずに応募を受けつけてくださっている点、非常に珍しい奨学金だと思います。

 

そして選考の過程においても、「誰が言っているか」よりも「何を言っているか」が重視され、研究していること・したいと思っていることの将来的な展望や、内容を評価してくださったように感じます。奨学生になった後も、同じ西原の奨学生であることがきっかけで、同じ学会の研究者との繋がりができたりもしました。

 

西原・環境奨学金がなかったら、今の仕事はしていなかったと思います。

​(研究室の写真)

​(アースピットの実測の様子)

​(採水の実測の様子)

​( アース​ピットの実測の様子)